あの歌姫がついに引退宣言

私は47歳なので、40歳の安室奈美恵(あむろなみえ)さんは私より一世代あとの女性たちのカリスマといえます。

今回の引退宣言で国中が北朝鮮問題以上に沸き立ってまだまだ平和な世相です。

去年の紅白に出場するかもと言っていたのが取りやめになり、京都の豪邸にいるのだと聞いた。私は大晦日に、こたつに入りながら、今頃、アムロちゃんはこの近くで除夜の鐘を聞いているのかもしれない、とウキウキと妄想しました。

ひょっとしてその時から引退を考えておられたのでしょうか?

安室奈美恵さんは女性たちにカリスマ的影響を

今までアイドルはいたものの、安室ちゃんほど、同世代の女性に影響を与えた人はいなかった。アイドルとは男性が女性を支持するものでしたが、安室奈美恵は男性にはもちろん、女性に圧倒的な人気を博したのでした。

若い女性は安室奈美恵の髪型や服装をこぞって真似ました。

ごつい靴にモコモコのボリュームのある靴下、ざっくりした上着、制服のスカートは短い。プリーツスカートから出ている生の足は、長く健康的だ。最先端のアムラー現象と呼ばれるそのキュートなスタイルを眩しい気持ちで眺めたことを思い出します。

安室奈美恵(アムロナミエ)とは誰か 似顔絵(にがおえ)
世紀の歌姫 安室奈美恵の似顔絵イラスト

私の世代は長い引きずるようなスカートで、女子大生は肩パット!というバブリーなスタイルなので、いわゆるアムラーさんたちとは隔世の感があります。

新しい母親像を体現する女性アーティストたち

生き方においてもそれは歴然とあります。

今の若い方には信じられないでしょうが、女性が子供を産み育てながら最前線で仕事をするというのがもう、とんでもない勇気のいることでした。理屈ではそういうのはアリだと知ってはいても、先の世代の団塊の女性たちはほぼ100%専業主婦であり、仕事で成功している女性は子供はいないあるいは結婚が破たんしている。つまり女性はいくら自由だと言われてもモデルケースがなかったのです。

そりゃそうです。銃後の守りだと産めよ育てよと国に言われ、戦後は子を産みすぎるな子は2人程度が望ましい家で家事子育てだけしていろ(専業主婦という人種は高度成長期に初めて登場したライフスタイルです)で今度は少子化だ でも労働力が足りないから産んで働け かつ産まない人生も尊重しろとか わけがわかりませんね(笑)

今の女子も違う意味で大変だよ、という声も聞こえてきそうですが。。

松田聖子さんがかつてはお子さんを母親に預けて、アメリカなど新天地で活動したり、「母である」女性が母であることを差し置いて、恋愛に仕事に夢中になること、そのライフスタイル自体に強烈なパッシングがあった。週刊誌やマスコミは今の不倫騒動以上に松田聖子さんを叩いたんですよ。聖子さんは離婚して独身なのに、誰と恋愛しようが自由なはずなのに。母である人が仕事や恋に一生懸命であることを社会は叩きまくったんです。どんな毒婦だというくらい。信じられないでしょう?でもそれがほんの20年ほど前のことです。

叩かれても叩かれても松田聖子は強かった。パパラッチに追いかけ回されあることないこと週刊誌に書かれまくってもひるまなかった。

誰になんと言われようがやりぬき歌うことを かつ子育ても恋愛も捨てませんでした。そして素晴らしいヒット作を次々と出しました。誰ももう彼女をアイドルとは言わないし、パッシングなんてもちろんしません。

ほんとに松田聖子さんという人はすごい特別なアイドルで、だから最初に風穴を開けたのは松田聖子なんです。同時代の百恵さんといいキャンディーズといい、女性アイドルや歌手は結婚、妊娠=引退が当然だった。というかそれを社会は望んでいたし、それが「オンナノコ」として当然のあり方だったんです。

その前の世代の歌姫といえば都はるみさんです。その生きざまについても述べたいことはいっぱいありますがいつか別の機会に。

聖子ちゃんが自分の生き方を思うままに貫いてのち、子供も仕事も捨てない若い女性がゾクゾクと登場します。当たり前のようにしなやかに新時代に突入します。

栄光の裏の悲劇と情熱

その先駆的な象徴、歌姫が安室奈美恵さんだったのです。

彼女の引退のこの感覚は前にも一度味わったことがあります。思い出したでしょうか?彼女は以前休業をしています。結婚、妊娠のときです。あの時も大騒ぎでした。紅白で「CAN YOU CELEBRATE?」を歌い、若いカリスマの妊娠と結婚を日本中が祝福し、大喜びしました。

こんなすごい歌手なのに、沖縄らしい温かい優しさと家族愛、一人の女性としての産む幸せ好きな人との暮らしを満喫していこうという姿勢。それはあまりにも自然で美しかった。斬新で健やかだったのです。

とっくに当時、少子化の危機は言われていましたが、当時の旦那さんのダンサーのSAMさんは政府のイクメンポスターに登場しました。新しい日本の家族像の象徴のように、この夫婦は期待されました。

暗雲が見えかかった日本は再び晴れるだろう、彼女の仕事と妊娠と結婚のように、日本の未来、日本の女性の未来は輝いていくことだろうと皆、信じたし、希望を持ったんですね。

しかし、そう上手くいかなかった。

時代はどんどん不景気の波が押し寄せ、ブラック企業は増えまくり一億総中流といわれたほどの日本は借金がかさんでいき、格差が出てきます。生活の苦しい層は増え、少子高齢化は加速します。

あのとき期待していたほど、女性たちは自由にすんなりとはいかなかった。

安室奈美恵さんのお仕事も小室ファミリーの衰退や彼女自身のプライベートな困難が頻発し紆余曲折します。盛り上がった沖縄アイドルブームも去り、ただただ美しく温かいだけと思われていた故郷の沖縄のアイディンティティも変革していきます。

平成女性たちへのエールと伴走者

安室奈美恵さんが引退と聞いて泣いて悲しんだ(´;ω;`)という女性タレントの記事やSNSを読むにつけ、不思議に私は思いました。

私の世代はまだ葛藤がなかった分ラクだったのかもしれません。結婚(子供)か仕事かを選べばいいだけだから。しかし選べないどちらも選んでも地獄かもしれないけど両方を選ぼうとした世代。両方を背負おうとした最初の世代である彼女たちこそ、一番の戦士であり、今もそうなのだと。

安室奈美恵の生き方をハラハラしながら同世代たちは見て応援していたのでしょう。自分たちもそれぞれの生き方を重ねながら、走っていたのでしょう。泣きながら。傷だらけになりながら。子供や仕事を背負いながら。専業主婦も働く母も独身も。仕事を捨てたから子育てをしなかったからラクだとかいう時代ではなく、どのカテゴリーの女性も(もちろん男も)一番矛盾と自由と喜びと悲しみを抱えていたのが、このアムラー世代という人達なのではないかと。一番いばらで痛んで闘っていた。

似顔絵:安室奈美恵の20年

安室奈美恵の20年はこのアラフォーの20年。プロ意識と芸を磨き、エンターティメント性や音楽性は研ぎ澄まされ、いつしか

とんでもなくカッコよく強く美しい40歳がいました。そして彼女は母なのです。

その立ち姿を見て、同世代たちは胸ふるえた。寂しさと悲しさだけではなく、感動と歓喜に。だからこそ、その絶頂の引退に泣かずにはいられなかったのではないか。

あっぱれ、と。

平成は終わったのだと言う人もいました。然り。まさに。