あの独裁者が現在によみがえる

今朝の日経新聞 春秋コーナーに

世界史のなかでナチスほど「民意」をよく問うた政権はなかったーー。

とありました。この映画を観て納得です。

映画『帰ってきたヒットラー』原題はEr ist wieder da 「彼が帰ってきた」

映画『帰ってきたヒトラー』予告編

日本語題名は帰ってきたウルトラマン、宇宙戦艦ヤマトみたいです。

内容は、

あの独裁者アドルフヒットラーがタイムスリップで現在に登場!

という「やっちゃった」設定です。世の中に物議をかもして注目を集める目的というより、今現在の世相にマッチしてるんでしょう。原作小説は本国ドイツで大ヒットらしいです。

題名そのままの内容

ヒトラーは、歴史に名高い悪人ですが、現代によみがえります。日本の漫画によくあるタイムスリップ設定です。

現在ドイツにやってきたヒットラー。何故かモノマネ芸人となりテレビで活躍。ドタバタコメディで、何度もゲラゲラ笑っちゃいました。

いや、そこ笑っちゃったらアカンやろ、

と思うのですが、止まりません。ヒトラーはその不思議な魅力カリスマ性で人心をつかんでいきます。

この時期の世相にあう映画

折しも、イギリスがEU脱退の国民投票を行ったこの時期に、この映画が上映されるとは冗談みたいな僥倖ですねえ。

原作「 帰ってきたヒトラー」を読んだ友人が言うに、皆ハッピーになる、ほのぼのとしたコメディ。

だといいます。映画と原作とは違うラストになっているのだとか。映画は、小説に比べ、悲劇性と批判性と皮肉が込められていると。

たぶん、現在の情勢やオトナの事情があるんでしょう。

ヒットラーを大っぴらにハッピーにしちゃいかんのでしょう。

映画には批判性が込められたシーンが多々あり

確かに、現実にありうるドキッとするようなシーンが沢山ありました。かつての終わってしまった歴史を今、高見であれこれ批判することはできます。が、今、魅力的な指導者が来て、我々の背中をそっと後押ししたら…

ヒトラーが今ここにいたら。悪い人なのに、危険思想の持主なのに、魅力的。説得力のある演説。だからこそ独裁者になったのだと、笑いながら背筋が時々ぞっとします。こうやって皆をとりこにしたのかあ、と。

たぶん、ちょうど今は、ヨーロッパは世相が荒れていて、 現実の問題なんでしょう。

外国人排斥、移民問題、貧困、格差…

日本にも同様の問題の萌芽を感じる人は少なくないはず。

ヒットラー、似顔絵師になる

面白かったのが、ヒットラーが、路銀(ドタバタ珍道中シーンあり)を稼ぐため、広場で似顔絵師をやるんですね。なんてったって元画家志望。

映画『帰ってきたヒットラー』似顔絵
映画「帰ってきたヒトラー」ワンシーン。路上似顔絵師をするヒットラーの似顔絵イラスト

広場で描いていたら、客が次から次へ来て、一日結構儲かるわけなんです。

さすが独裁者になる人は才能が多岐にわたっています!

アドルフヒトラー、彼は、現実には、印象派やエコールドパリなどの当時の先鋭的な自由な美術を排斥したわけです。だから、この映画のエピソードは不自然ではあるんですが。

調べると、ヒトラーの作品は、古典主義的な絵で、こりゃうれへんわ、と思いますが。。

本当に、ヒットラーが似顔絵師になったら、いわゆる作務衣おじいさんの描く、リアルタッチの古臭い絵になるんだろうな、とは思います。

映画で描かれたヒットラーが描いた似顔絵は、アイロニーが効いていて、コミックタッチでイケてる。そこだけはフィクションが過ぎるとは思いますが、面白かった。

映画や原作のエディトルアルもイケている

似顔絵といえば、ヒットラーの似顔絵は皆描いている。描きやすい。企画・広告担当のゲッペルズさんが考えたんでしょうか。どうしてこの髭にしたのか、映画中で語られていました。キャッチーなあの髪型と髭は一発で覚えるし、強烈ですよね。

原作書籍の原題は「Er ist wieder da」。活かした表紙デザイン。面白い!

しかし、あの北朝鮮の人もツーブロックですね。独裁者ってツーブロックが好きなんでしょうか。

わざと似顔絵にしやすい髪型や髭にするんでしょうかね。

トランプさんはしゃべり方がヒトラーっぽいですが、危険な独裁者になりそうかどうかは論が分かれるところでしょう。彼も似顔絵にしやすい面白い顔ですよね。

トランプ大統領似顔絵
アメリカのドナルドトランプ大統領の似顔絵イラスト

コンテンツ化されたアドルフ・ヒットラー

長い間、ヒットラーはメディアで扱うことがタブーでした。

欧米でヒットラーを褒めること、更には、ユダヤ問題に批判的である発言をうっかりやっちゃった著名人。彼らは社会的地位を一切失うほどの打撃を受ける。

日本でその感覚がつかめず、ずれていて。ナチスはユダヤを虐殺してないとか論を出来心で載せてしまった大手雑誌が数年前ありました。世界的に激しく批判され、そのせいかどうか知りませんが、確か廃刊になっています。

それほどまでにヒトラーを題材に扱うことはタブーであり、危険なことです。

しかし、近年の情勢や世相で少しずつ、ヒトラーの何が人を惹きつけたのかという魅力についても取りざたされるようになりました。彼を支えてしまった無欲無垢であるはずの大衆自身についての批判もされるようになってきました。

売れて消費されるヒットラー

ヒトラーは危険ですが、既に「コンテンツ」として消費されています。

いくらコンプライアンス的にタブーであろうとも。あの髭、行動、思想は題材にするに相応しいのです。

ヒトラーというコンテンツジャンルは確かに存在します。ゾンビ映画のように。

古くはチャップリンから、12日間の闘争。ヒットラージャンルの一大産業は確かにあるのです。

ナチスをテーマにしたSF「アイアンスカイ」は面白い映画でした。

結局ヒットラーを扱うと売れるのです。

この映画『帰ってきたヒットラー』の中でも「ヒットラー俳優」という言葉が出てきました。そっくりさんジャンル、俳優がいて需要があるのですね。

テレビ局の人々が、芸人ヒトラー(実際は本物)を出していいものやら悩みます。が、面白いし視聴率も上がるので、出し続けて人気が出る。タレント・ヒトラーはスターダムに乗り上げます。映画自身がそのコンテンツとしてのヒトラーを皮肉っているのです。

やっぱ水木しげるさんの描く漫画のヒットラーが一番イケてるわあ。。。