大阪にかかっちゃ高尚な肖像画も(笑)

現在、大阪でルーブル美術館の展覧会がやっております。テーマは肖像画。つまり似顔絵の源流にあたるものです。

「ルーヴル美術館展 肖像芸術 一 人は人をどう表現してきたか │ 大阪市立美術館」

広告がちょっと批判され気味…。

「大阪の手にかかればこんなに最低最悪になります」ルーブル美術館展の広告に賛否「ネタでも寒い」「キャッチーで好き」

これも大阪らしいネタで、こうした賛美両論も楽しいものです。芸術というのは宗教ではないので、崇めたてまつるものでもないが、あまり貶めても冒涜だ!と物議をかもす。

元々、アートというのは批判されてなんぼのもので、そうして、印象派だのキュービスムだのマニエリスムだの色々潮流が生まれたわけです。

人はなぜ似姿を残すのか 似顔絵の系譜 ルーヴル美術館展

ルーヴル展はアカデミックで高尚な肖像画が中心です。

そういったものの長い潮流の後に現代的な「似顔絵」が誕生しました。

肖像画と似顔絵の違いとは

肖像画と似顔絵の違いは大してあるものではありません。(って書いたらエラい画家の人が怒りそうですが)

どちらも描いてほしい注文主と画家がいるだけです。

もちろん広告や雑誌や新聞など、間に立つメディア編集者であるクライアントが発注するものもありますが

基本、顔を描く絵画マーケットは、欲しい人がお金を出して描いてもらう、というもの。それが絵画芸術のはしりです。今にはじまったことではありません。古代からありました。

昔は、パトロンの貴族や、為政者が政治的な目的や個人の楽しみなどの目的で顔を画家に描かせたのです。

なんとなく、昔ながらの写実的な顔の絵を肖像画、コミック調やイラストレーション的な顔の絵を似顔絵と呼んでいるだけです。実際はその境界線と思想は曖昧で、「なんとなく」その単語を使い分けているのが現実です。

値段的なものの差はもちろんありますが、そのうち、価格も関係なくなるでしょう。古典的肖像画っぽいのが高価そう、というのは間違いです。昭和的な感覚でもはや古い。

欧米では有名人の似顔絵には高い価格がつくものがあるし、イラストレーションの分野でも和田誠さんの描く似顔絵イラストはまさにアートそのものだからです。

「似顔絵」の源流とは?

現在のような大衆的な「似顔絵」が誕生したその境界線は、

日本は、浮世絵が似顔絵の源流と言われてますが

欧米はなんだろうか POPで大衆的な「似顔絵」の源流は?

それは、近代(モダン)の幕開けと重なります。

その代表的な肖像画芸術家は、アンディウォーホルです。

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Unknown (Mondadori Publishers) – http://www.gettyimages.co.uk/detail/news-photo/portrait-of-the-american-artist-andy-warhol-at-his-news-photo/141553292, パブリック・ドメイン, リンクによる

アンディ・ウォーホル ウィキペディア

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Jack Kightlinger – This media is available in the holdings of the National Archives and Records Administration, cataloged under the National Archives Identifier (NAID) 175147., パブリック・ドメイン, リンクによる

ポップアーティスト アンディ・ウォーホル

ウォーホルはご存知アメリカンのPOPアーティスト。デザイン的でキャッチーな作品が次々と生み出され、現代美術の代表です。その手法は新しく、革新的。

写真を用いてシルクスクリーンを使ったりコミックを模倣したり

それはメディアの発展と大きく関わります。印刷技術の発展、テレビ、写真、コミック。

本来ならアート、肖像画は「美しいもの」であり、壁にかけて「鑑賞するもの」であったはず。それが、近代になり、メディアの発達と共に大きく社会が揺り動き、大衆化し社会運動のうねりの中で、変化しました。

ちょうどこの時代は、アメリカは激動の時期を迎え、学生運動とベトナム戦争、そしてビートルズ、ボブディラン。

芸術が従来のものでは人々は飽き足らなくなってきたのです。

その時代の寵児がウォーホルでした。

ウォーホルの肖像画

さまざまなウォーホールのポートレート、マリリンモンローは有名です。

セックスシンボルとして扱われたマリリンですが、ウォーホルのポートレートがまさにそのもののアイコンとして誰もが思い浮かべるでしょう。

ウォーホルの作る肖像画は、従来の概念を覆します。

それは従来の注文主→画家というCtoCではない。直接、顧客のために描かれたものではないのです。

物議をかもしたスキャンダラスなウォーホルの芸術

彼の描く肖像画、それは時代の声である。ウォーホルの思想でもって変革の時代を切りとった「顔」だったのです。

Jacqueline Kennedy
Jacqueline Kennedy

ケネディ大統領の妻、ジャクリーンの肖像画。中でもケネディ大統領の暗殺の葬儀の写真を用いた作品は有名です。

反復された毛沢東

より社会性や現代的なメッセージ性を帯びたウォーホルの肖像画は、POPでいて、観るものに、不思議な感覚を呼び覚まします。社会風刺、つまりカリカチュア(諷刺似顔絵)です。

ウォーホルの肖像画は時代を切り取った社会風刺

ウォーホルの肖像画の精神性はカリカチュアの源流、21世紀の「似顔絵アート」の原型の一つといって間違いないのではないか。

より大衆的でPOPな肖像画の始まりです。それは肖像画が似顔絵へと広がるひとつの契機でした。

誇張をするかどうか、コミックであるか、という画風に着目しがちですが、本質はメディアと諷刺の問題です。精神性において、ウォーホルはまさにカリカチュアです。

肖像画のみならず絵画やアート全般はよりPOPとなり、美術館というハコから抜け、動的で自由になりました。音やCGを駆使、いまや音楽や二次元三次元の区別でアートを語る人は少ないでしょう。

特に、この10年ほどかけて似顔絵というジャンルが急激に発展したのではないか。ウォーホルの時は印刷技術というメディアの発展ですが、この10年のメディアの変革はインターネットです。

コミックの浸透と、テレビ、新聞というメディアの衰退の後にきた、インターネット。SNSなどによる、情報の共有と拡散。グローバリズムと共に美術の境界がなくなってきたのです。

人の「顔」はこれからどのように変わっていくのか。

似顔絵師(肖像画家)必読?村上春樹「騎士団長殺し」